病棟で患者さんに薬を与えることは一般的に投薬、又は与薬と言われていると思いますが、英語での正式な名称を medication administration と言います。投薬記録のことを Medication Administration Record といい、略して MAR (そのまま「マー」)と呼びます。今ではカルテは電子化されているところが多いかと思いますが、私が働いていた病院では、その時はまだ紙で出力されていました。患者さん毎に24時間(日勤の始まる朝7時から)の単位で必要な薬が書かれていて、それぞれ投薬する時間も定められていました。時間はシフトごとに区切られていて、まずシフト始めにその日の投薬スケジュールを確認するのが日課でした。
夜勤勤務だった私はそれほど莫大な量の投薬作業をこなすことは稀でしたが、その日にオーダーされた新しい薬がきちんと次の日のMARに追加されているか、また中止になった薬がちゃんと除外されているかを確認する作業がありました。そして修正箇所があれば、院内薬局に報告していました。たまに今までになかったオーダーが突然新しいMARに出現したりして、カルテを再度チェックし、ドクターのオーダーに見落としがなかったかを確認するのに時間がかかることもありました。
Medication error(投薬過誤)が起こらないためにかかる事務作業も多くありましたが、実際に患者さんに薬が与えられる時にも呪文のように唱えられるプロセスがありました。これを “5 rights of medication administration” といいます。ここで使われる right の意味は「正しい」で、間違いなく投薬をするためにする5つの正しい確認項目を指します。
まずは right patient、正しい患者かどうかをチェックすること。これは投薬をする時、毎回MAR をベッドサイドまで持っていき、患者さんのリストバンドと一致しているか確認することです。次に right medication、正しい薬かどうかを確認すること。患者さんごとに仕分けされている薬ですが、その薬がMARと一致しているか確認します。同時に right dosage、正しい容量と right route、正しい方法かどうかも確認します。最後に right time、正しい時間かどうかの確認です。ドクターのオーダーでは「1日2回」と書かれていた場合は、病院のシステム上時間は午前10:00と午後22:00に決められています。病院によってルールは多少違いますが、原則この定められた前後30分以内にその薬は投薬される必要があり、その時間外(遅れた)場合は “late”になり、あまりlate が多いと問題になりました。患者さんが検査で不在の時など、やむ終えない場合は、時間にマルをつけ、戻ってきた時に投薬をした場合はその時間を記入することになっていました。時々患者さんが処方された薬を「飲まない」と言うこともあり、その場合はマルをつけ “pt refused” (患者拒否)と書いていました。いまでは手書きのところは殆どないと思いますが、電子的にもこのように記録をしているかと思います。
投薬という大事な作業中に気を緩めると大変なことになりかねないので、この “5 rights of medication administration”は初心を忘れずに確実にこなすステップでした。
橋本実和
(米国・日本看護師、米国看護学士)
IPEC看護英語教育アドバイザー
アメリカ・カリフォルニア州のCommunity Collegeで看護教育を経てAssociate Degree in Nursing(ADN)を取得。NCLEX-RN合格後、バークレー市内の病院のがん・血液科病棟にて病棟ナースとして5年間従事。その間にカリフォルニア州立大学にて看護学士を取得。帰国後、IPEC看護英語専任教師として活躍しながら、日本の看護師免許を取得。現在はインターナショナルスクールのスクールナースとして働きながら、IPEC看護英語教育アドバイザーを務める。
看護学生・現役看護師の方々からの強いご要望にお応えして、実践的な英語コミュニケーション力を習得できる 「看護英語テキスト」を作成しました。
看護・医療系学校の英語授業、医療機関の英語研修でご活用いただいております
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