看護英語テキスト『Nursing English in Action』作成への思い

虹は何色(なんしょく)から構成されるでしょうか?

「そんなの当たり前、7色に決まっているじゃない!」という声が聞こえてきそうです。

本当にそうでしょうか?確かに私たち日本人は7色と認識していますが、米国では6色です。あの赤色から紫色までのグラデーションがかかった色の帯を何色に分けるかについては、正しい・間違いということではないですね。何色と認識するかは、その者の拠って立つ価値観や文化に依存するのです。

人間ならではの「思考」という営みは「言葉」というラベルを操作することにほかなりません。眼前の事象を「概念化」し、その概念を操作するために「言葉」というラベルを付けるのです。3色の交通信号とは赤色・黄色・青色であるとされていますが、実際には青色でなく緑色に見えるものもあります。だからといってその緑色の信号を「緑信号」とはいわず「青信号」と扱いますね。これが概念化であり、その場合の「青信号」というものが、その「同一と概念化されたグループ」についてのラベル名なのです。

思考の進め方も言語体系に深く根ざしています。日本語ならば「起承転結」が腑に落ちる論の展開方式ですが、英語思考の者にとっては「言いたいことが一貫していない」と感じられます。英語的には「私はこう考える。何故ならば……」と、まず主張したいことを述べ、それに引き続き、理由を並べていくのです。この展開順序は単一文中にもみられ、日本語では「今日はいい天気ではありません」と最後まで聞かなければ分かりませんが、英語では“It is not fine today.”と最も言いたいことを最初に配置するのです。

医療現場では人種、価値観、文化、生活にあまり依存しない厳然とした存在としての身体があり、その生物学的存在に対して直接的な対処を提供することもあります。その一方で、暮らしに根ざしたケア提供が求められる場面も多々あります。

身体についての認識は比較的ユニバーサルであり、文化を超えた普遍的な、いわゆる医学用語のような言語体系に基づいて進めるべきでしょう。しかし生活については何をどう認識するかは一様ではありません。その意味でも文化や価値観を踏まえた理解が欠かせません。

本書は「ユニバーサルな医学用語体系の習得」と「文化背景を踏まえた異文化理解」への指南書を目指しました。適正に医学用語を使いこなすだけでなく、単なるword to wordの変換ではない、communicationの根底にあるcontextの共有のためにも、実際の場面を例示しつつ進めています。そのために、日本文化を根底に持ちつつ英語圏での看護業務と生活の体験が豊富な看護師を中心とするメンバーで丁寧に検討されていることが特長です。

医療現場で多く使われている英語を通して、あなたの活躍の幅を拡げてみませんか。

【監修】

山内豊明(医学博士・看護学博士)
特定非営利活動法人プロフェッショナル イングリッシュ コミュニケーション協会 理事長
看護英語教育ワーキンググループ座長
放送大学大学院文化科学研究科生活健康科学 教授
名古屋大学 名誉教授
(2020年現在)