私が地域看護の実習をした施設には、Care Transitions Interventionsというプログラムがありました。これは、退院間近の患者さんが退院後の生活へのtransition(移行)をスムーズにできるようにお手伝いをするプログラムでした。実習とはいえ、もうすでに私は看護師の免許を取得していたので、ほぼその施設のスタッフのように動いていました。
まず病棟へ行き、退院間近の患者さんのベッドサイドまで行き、自己紹介をし、プログラムの説明をします。「退院後に訪問します。」ということを了承いただき、その場ではそれで終わりです。退院後の訪問の日時を決め、その日に話すことを前もって準備しておきます。
退院後、家への訪問時は身体的なアセスメントというよりは、入院中に行った退院指導が実行されているか、もとの生活に戻れているかなどを中心に話をしていきます。例えばうっ血性心不全で入院していた患者さんは、退院後に薬はちゃんと入手して飲めているか、朝の体重はちゃんと測って記録しているか、足のむくみや息切れなどの症状はよくなっているかなどの話をします。
このようなプログラムが確立された理由のひとつに、アメリカ政府が運営しているMedicare という公的健康保険に加入している患者さんには、退院後同じ診断名で30日以内に再入院する場合、Medicareから病院への支払いが行われなくなったことがあるようです。医療コストを抑えるために、早めの退院を促していた病院も、この制度が実施されてからは注意が必要となりました。入院中は医療従事者にすべてケアを任せていた患者さんが、退院してからセルフケアがなかなかうまくできず、症状などを悪化させ、再入院となることが多いためです。そこで、このCare Transitions Interventions といったようなプログラムを設け、退院してからのセルフケアのお手伝いをし、家でも症状などを安定させる努力を医療機関側が行なっているのです。
この実習の経験で記憶に残る患者さんは、一人暮らしの92歳のおばあちゃんでした。何の病気で入院していたかは覚えていないのですが、一番印象に残っていることは、運転免許の更新が出来なかったために免許がなく、クリニックへ通院するのが大変だと嘆いていたことです。公共交通機関がほとんどないところに住んでいて、送迎バスサービスも行きたい時に行きたいところへ行けず使いづらく、自分で運転ができなくなったために自由を失い生きがいを失った、というお話をしていました。この実習の経験を通し、患者さんから色々な日常生活や人間関係のお話が聞くことができて、入院中みんな同じに見える「患者」という人たちのことを、色々な問題を抱え持つ「一人の人間」として捉えられるようになったと思います。
橋本実和
(米国・日本看護師、米国看護学士)
IPEC看護英語教育アドバイザー
アメリカ・カリフォルニア州のCommunity Collegeで看護教育を経てAssociate Degree in Nursing(ADN)を取得。NCLEX-RN合格後、バークレー市内の病院のがん・血液科病棟にて病棟ナースとして5年間従事。その間にカリフォルニア州立大学にて看護学士を取得。帰国後、IPEC看護英語専任教師として活躍しながら、日本の看護師免許を取得。現在はインターナショナルスクールのスクールナースとして働きながら、IPEC看護英語教育アドバイザーを務める。
看護学生・現役看護師の方々からの強いご要望にお応えして、実践的な英語コミュニケーション力を習得できる 「看護英語テキスト」を作成しました。
看護・医療系学校の英語授業、医療機関の英語研修でご活用いただいております
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