世界中で感染者が増え続けるCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)。この新しい感染症は、感染した場合の重症化や死亡のリスクがインフルエンザよりも高く、特効薬もまだないことから、ワクチン開発が急ピッチで進められています。
ワクチンを接種すると、特定の感染症に対する抗体が体内に作られ免疫ができ、感染症の発症や重症化を予防できます。このようにワクチン接種(予防接種)は感染症から自分の身を守るというメリットがありますが、実は接種した人だけでなく、免疫を持つ人が増えることでまわりの人も感染しにくくなる、つまり社会全体を守るというメリットもあります。
多くの人が免疫を獲得し、感染症が流行しない状態を「herd immunity(集団免疫)」と言います。「herd」は群衆、「immunity」は免疫という意味で、集団免疫はpopulation immunity、またはcommunity immunityとも呼ばれます。「私は●●の免疫がある」と言うときは形容詞の「immune」を用い、「I’m immune to chickenpox.(私は水痘の免疫がある)」などと言うことができます。
どれくらい多くの人が免疫を持つとherd immunityの効果が発揮されるかは、感染症によって異なります。例えば、麻疹(はしか)は95%、ポリオは80%の人が予防接種を受け、免疫を獲得する必要があります。
では、COVID-19の場合はどうでしょうか?残念ながら、何%の人が免疫を持つ必要があるのか、現時点ではわかっていません。
免疫の獲得には、ワクチン接種、または感染症にかかるという2つの方法があります。しかし、感染症にかかるという方法はリスクが高く、十分な免疫が得られない場合もあることから、ワクチン接種による方法が一般的です。
しかし、COVID-19については、感染者を増やすことでherd immunityを推進しようという動きもあります。
北欧のスウェーデンは、COVID-19の感染拡大当初から、他の欧米諸国と異なる対策をとっています。学校や飲食店等の閉鎖を行わず、国民に対しsocial distancingやマスク着用の徹底を呼びかけました。herd immunityを目指した戦略とも捉えられていますが、スウェーデンのCOVID-19による死亡率は近隣諸国よりも高く、抗体陽性率はherd immunityにはまだ程遠いようです。
米国では、落ち込んだ経済の回復を促すため、感染しても比較的重症化しにくい若年者などを職場や学校に戻し、自然に感染者を増やしながら同時に経済を回していく方策を、一部の政府関係者が提唱したりしています。
世界保健機関(WHO)は、感染によるherd immunityの獲得は、重症化や死亡を含む多大なリスクを伴うため、非倫理的な手法だと問題視しています*1。特にCOVID-19は未解明な部分が多く、感染によって十分な抗体が産生されるのか、抗体の効果はどれくらい持続するのかといった情報もわかっていません。同じコロナウイルス属である重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)は、時間が経つにつれ免疫が低下することがわかっており、COVID-19も一度感染した人が再感染する可能性が指摘されています。さらに、COVID-19は多臓器に影響を及ぼす場合があり、一命を取りとめても長く後遺症が残る恐れがあります。
こうした状況を考えると、COVID-19については感染者数を最小限にとどめ、効果的で安全なワクチンの完成を待ってからherd immunityを目指す方が得策だと感じます。コロナ後の新しい生活様式はストレスも多いですが、今はじっと耐えて感染拡大防止に徹することがCOVID-19制圧への近道だと信じたいです。
久々宇 悦子(カナダ看護師、日本看護師・保健師)
日本で看護大学卒業後、国内で病棟勤務を経てカナダ渡航。独学でカナダ看護師試験(Canadian RN Exam)に合格、看護師免許取得。就労ビザ取得後、トロント市内の地域基幹病院に入職し、外傷・脳神経外科ICUにて看護師として2年間勤務。帰国後、看護職能団体にて看護労働や学会事業等に従事。
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