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「新型コロナウイルス感染症対策の情況分析・提言」における水際対策の見直しから考えること

2020年6月1日
理事 渡辺英緒

 令和2年5月29日に新型コロナウイルス感染症専門家会議(専門家会議)が開催され、「新型コロナウイルス感染症対策の情況分析・提言」(情況分析・提言)の内容が情報開示されています。この情況分析・提言の27ページに「(6)水際対策の見直し」に関する記述があります。なお情況分析・提言の全文は、下記からダウンロードできます。
 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/senmonkakaigi/sidai_r020529_2.pdf

 新型コロナウイルス感染症に関する国内外の情報については、正確性を期すために、政府機関、国際機関等の一次情報の提供に努めておりますが、一次情報の読み方についても、上記の情況分析・提言を通して言及していきます。

 まず、上記の情況分析・提言の「水際対策の見直し」の記述を以下に示します。


(6)水際対策の見直し
○ 近隣諸国において、感染者数の減少が報告されており、今後、人々の国を越えた往来についての議論が始まるものと想定される。諸外国における患者数を特定するサーベイランスの体制は様々であり、現在報告されている患者数が必ずしもその国の流行状況を反映していない可能性も考慮し、慎重に見極める必要がある。
○ 3月中旬からの国内での感染拡大のきっかけは感染対策が十分に進んでなかったところに欧州等で感染した帰国者の流入によって、流行が拡大したことがウイルスの遺伝子解析で明らかになっている。今後、海外との往来の再開が、国内での再度の流行拡大のきっかけとなる可能性がある。
○ 今後の水際対策の手段の検討にあたって、政府部内において十分な議論をし、各国の流行状況や国を越えた人々の往来の正常化を目指すための国際的な取組みの動向を見極めつつ、出口戦略としての開国並びに感染拡大の防止、入国者が発症した場合に対応する医療機関の負担、さらには、流行の拡大に伴う、再度の入国制限の考え方などを明らかにし、対策を実行する必要がある。
○ また、国内で感染拡大を防ぐ新しい生活様式が定着するまでの当面の間は、 入国者を一定の数に限定するなどして徐々に緩和を目指すことが適当である。

 上記の内容を、専門家会議は、新型コロナウイルス感染症対策本部(対策本部)に対して提言しています。専門家会議という機関は、内閣総理大臣を本部長とする対策本部の下、新型コロナウイルス感染症の対策について医学的な見地から助言する機関です。
 したがって専門家会議の提言した内容がそのまま政策に反映されるわけではないことをご理解ください。対策本部(政府)は、専門家会議の提言を受けて、世の中に与える社会的、経済的影響を考慮して最終判断を下し政策に反映します。今後、政府がこの提言を受けてどのような政策を講じていくのかを注視していきましょう。
 先週、この専門家会議の議事録が残されていないことを問題視した報道がありました。その議事録とここで扱っている情況分析・提言とは異なるものです。前者は、会議で誰が何を発言して会議がどのような決定をしたかの記録で、後者は会議構成員の意見を集約した、つまり会議の総意による分析と提言です。


 わが国の新型コロナウイルス感染症対策に関しては、主要各国と同様に公衆衛生部門を担当する厚生労働行政部門が、対策本部、専門家会議において中心的役割を果たしています。テロ活動や戦闘状態による国際的危機に対する政府対応と、この点が異なっています。他の国も同様です。
例えば、オーストラリア政府は、未だにオーストラリア市民等を除く入国については、国境を閉めています。オーストラリア政府においては、保健省が中心となって作成した新型コロナウイルス感染症対策の3ステップ・プランを本年5月8日に施行し、5月21日に一部改訂しています。この3ステップ・プランの教育分野のステップに着目すると、幼児教育、初等・中等教育の再開をステップ1の段階から先行させていくと同時に、高等教育における実技を伴う専門職教育の対面式授業の再開も先行させていくことがわかります。そして、海外留学生の渡航、つまり入国に関しては、ステップ3の段階になってから検討されるようになっています。
上記で示した実技を伴う専門職教育の対面式授業の再開については、世界共通の課題となっています。共通課題となっている理由は非常にシンプルです。社会の機能を維持するために必要な各専門職を養成する教育は、このような情況下であっても停止することはできず、安全性を確保した上で継続されなければならないからです。例えば、看護師の養成教育などが該当します。医療系の教育だけではありません。社会基盤を支える専門職の人材養成が検討の対象となります。この点に関して、わが国の官・学・産やマスコミが上記のアプローチであまり注目していないことに逆に驚きを感じています。
このオンライン教育との親和性が乏しい実技系の専門職教育の再開に関しては、世界最大の感染者数を示している米国も同じ課題を抱えています。準学士号レベルの実技系の専門職教育(Career and Technical Education)を担うコミュニテイカレッジの専門職教育課程は、教育の継続のために苦悩しながらも調査と議論を重ねています。1200を超えるカレッジ会員を擁し、強力な政策提言力を持つ全米コミュニテイカレッジ協会(American Association of Community College)がその最前線にいると言っても良いでしょう。当協会の提言等を別途まとめて、IPECに報告したいと思います。(了)