今まで2回にわたってイギリスの新型コロナウィルスへの対応について書いてきましたが、今回からは現場の生の声を皆さんに聞いていただきたいと思います。英文は多少変えてありますが、私がイギリスで一緒に働いていた同僚たちが伝えてくれた当時の最前線の様子です。たった3週間で現場がどのように変化したかがよくわかります。
WHOがパンデミック宣言をした3月11日の数日前には、
“I’m now doing a simulation with a group of doctors.”
「今、先生たちのグループと(新型コロナウィルス患者が来た時の)シミュレーションをしているよ。」
と、まだ切羽詰まった様子はありませんでした。この時はUK全土の感染者もまだ300人ほどで、お互いに、”Stay safe!”「無事でいてね。」と言い合う程度だったのです。
しかし、その2週間後に事態は一変しました。
“It’s not great. We’ve increased a 20 bed ICU to a 30 bed ICU and have made a cardiac ward to an ICU today. I need a silicone dressing for my mask. I got sores across my nose.”
「(事態は)あまり良くないよ。今日、20床のICUを30床にして、循環器の病棟もICUに変えたんだ。私はマスクのためにシリコン絆創膏(通常は褥瘡予防に使用)が必要だわ。(N95マスクの着けすぎで)鼻の上をまたぐように傷ができちゃった。」
と、重症患者の増加に対応すべくICUを拡張していて、感染者を毎日看護している様子が伺えます。N95マスクはゴムがきついので、ずっとつけていると痛くなってきますよね。特に鼻の高いイギリス人たちは大変そうです。
更に1週間後には、
“I’m called into work! I could have said no, but…”
「(休みの日にスタッフが足りなくて)職場に呼ばれた。断れたかもしれないけど、でも…。」
と、現場のスタッフがどんどん足りなくなっているようでした。イギリスではスタッフが足りなくなると、当日の朝でも電話がかかってきて出勤が可能か聞かれることがあるのです。行きたくないけれど、苦しんでいる患者さんや他のスタッフのためにという使命感とのはざまで、葛藤している医療者の心の内が伝わってきます。
そして、次のメッセージからそのシフトがどんなに過酷であったかが、伝わってきます。
“It’s like nothing we’ve ever seen. Patients are all sick. They are on high O2, cardiovascularly unstable and sooner or later need CRRT.”
「こんなの見たことない。患者さんはみんな重症なんだよ。(人工呼吸器の)酸素濃度は軒並み高くて、血圧なんかも不安定で、遅かれ早かれCRRT(持続的腎代替療法)が必要になる人たちばかり。」
きっと、戦場のようだったのでしょう。たった3週間で、こんなにも状況が変わるとは誰が予測したでしょうか?私はただ、”I’m thinking of you.”「あなたのことを思っています」としか言えませんでした。
これらはイギリスだけでなく世界中の最前線で働く医療従事者たちの心の叫びだと思います。今現在は、イギリスのCOVID-19専用のICUは縮小傾向にあるとのこと。どうかこのまま終息に向かっていってほしいものです。
このように何かを切に願う時、イギリスでは人差し指と中指を交差させて、おまじないのようにこう言うのです。”Keep fingers crossed!”
吉濱 いほり 英国・日本看護師、英国看護学士
日本で看護短期大学を卒業後、病棟勤務を経て渡英。Supervised Practice Program (現在のOversea Nurses’ Program)を履修し、英国看護師としてNursing and Midwifery Councilに登録。脳神経外科・内科病棟に勤務しながら、City, University of Londonにて看護学士(BSc Hons)を取得。National Health Serviceの病院で14年間勤務後、 2019年に帰国。
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