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新型コロナウィルスへの対応 ~イギリスの日本人看護師に聞く~

【海外の看護現場から】

今回はイギリスで働く日本人ナースの朱雀さん(仮名)にお話を伺います。

朱雀さんは、普段は外来でClinical Nurse Specialist(CNS 専門看護師)として働かれていますが、今回の新型コロナウィルスの拡散で一時的に病棟へ配置転換されました。その後、ご自身も新型コロナウィルスに感染されて、今は自宅で療養されています。イギリスの最前線がどのようなものか、医療者が感染したらどのようになるのか、お聞きしました。

Q:どのような経緯で外来から病棟に配置転換されたのでしょうか?

A:3月半ばにマネージャーから他の多くのCNSたちとともにredeployment(配置転換)されることを知らされました。行く病棟はいくつか選択肢がありましたが、病棟で10年以上働いていないので不安でしたね。その病棟の看護師と2人1組で働くとのことでしたけど、新型コロナウィルスの患者さんがいる病棟だとは知らされていませんでした。いるだろうと予想はしていましたけど・・・。4月初めから働き出しました。

Q:どんな病棟でしたか?

A:いざ当日行ってみると、その病棟のマネージャーが病欠中で、スタッフの誰も私がその日から来るとは知らなかったんです。オリエンテーションもなしでいきなり患者さんを受け持たされそうになり、慌てました。現場の混乱ぶりが分かると思います。

30床くらいのAccident & Emergency(A&E 救急外来)に隣接した病棟でしたが、ほとんどが新型コロナウィルス陽性の患者さんでした。高齢者が多かったですが、40~50代の患者さんもいました。

Q:シフトはどのように組まれましたか?

A:12時間半の日勤で、週に3回働きます。ものすごく忙しくて、やはり呼吸困難があって自力では動けない患者さんがほとんどなんですよ。なので、ちょっとしたことでも介助が必要で、ナースコールが鳴りっぱなしでした。

Q:Personal Protective Equipment(PPE 個人用防護具)は足りていましたか?

A:私たちはスクラブを着ているのですが、マニュアルでは陽性患者に接するときでも、ビニール製のエプロンとサージカルマスク、手袋、ゴーグルかフェイスシールドだけしか着けないことになっているんです。ネブライザーをする時とIPPB (間欠陽圧呼吸)使用中の患者さんをケアするときのみ、ガウンとN95マスクを着けます。なので、完全防備のためのPPEは足りていないんだなと感じていました。

Q:ご自身も新型コロナウィルスに感染されました。今は落ち着かれているそうですが、最初に症状が出た時はどんな感じでしたか?

A:病棟で働き出して3週間目、不眠と寒気がありました。熱はなかったので、ストレスかと思っていたんです。普通に出勤しましたが、勤務中にひどい頭痛と筋肉痛を感じたので、同僚が早く帰してくれました。でも、翌日には治ったので一旦は安心したのに、2日後に猛烈な寒気を感じて、38.4度の熱が出てしまいました。乾燥した咳も出ましたが、呼吸困難はありませんでした。

すぐに病院が開設していたスタッフ用のヘルプラインに電話したのですが、検査をしようにも車を持っていないので病院までの足がありません。紆余曲折あり、一緒に住むパートナーが働く病院が送迎を手配してくれて検査を受けました。陽性でした。

Q:感染したと分かった時はどんな気持ちでしたか?

A:まず、ショックでした。まさか自分が?という気持ちです。普段からジムに通い、ここ10年は病欠も一切していなかったんです。健康に自信がありましたし、マニュアルに従って適切にPPEを使用して、手洗いも手の皮がむけるまでしていました。それでも感染するなんて・・・。悔しかった。

さらに、これからどうなるんだろうと怖かったです。急変して、肺炎になるかも?と。腎不全や、心筋梗塞の事例も報告されています。最悪のケースを目の当たりにしていただけに、不安でした。

あとは、罪悪感もありましたね。他のスタッフはあの過酷な状況で働いているのにって。病欠に慣れていないんです。

Q:最後に、日本と英国の違いはどこにあると思いますか?

A:日本は政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議が良く機能していると思います。PCR検査を実施するキャパシティが小さいので、韓国や台湾と同じ方法が取れないと分かると、すぐに数理モデルに基づいた対策に切り替えたのがすごい。イギリスは、初期のherd immunity(集団免疫)という対策が大きな間違いでした。イギリスにも世界に名だたる素晴らしい科学機関があり、数理モデルの専門家もいるのに、ロックダウンが遅すぎましたね。これだけの死者が出す結果となってしまいした。

朱雀さん、貴重なお話をありがとうございました。恐怖と戦いながら働いておられる最前線の過酷さは、心が苦しくなるほどでした。お体の回復と、一日も早くこの事態が終息し元の仕事に戻れますようお祈りいたします。

ブログ執筆者

吉濱 いほり 英国・日本看護師、英国看護学士

日本で看護短期大学を卒業後、病棟勤務を経て渡英。Supervised Practice Program (現在のOversea Nurses’ Program)を履修し、英国看護師としてNursing and Midwifery Councilに登録。脳神経外科・内科病棟に勤務しながら、City, University of Londonにて看護学士(BSc Hons)を取得。National Health Serviceの病院で14年間勤務後、 2019年に帰国。