アメリカでテレビを見ていると、どんな番組でも必ず登場するのが「処方薬」のコマーシャルです。これはあまりにも普通のことなので、アメリカ人はあまり意識していないことだと思うのですが、最近私が訪米した時に自分の中で特に目についた現象だったように思います。コマーシャルは一般的に、何らかの商品やサービスを消費者に宣伝し、それを見た消費者がお店に行って商品を購入したり、電話でサービスの問い合わせをするように仕向けるのが目的だと思うのですが、処方薬の場合、コマーシャルを見て「これ試してみたい」と思っても薬局に行って買えるものではありませんよね。
“Talk to your doctor and see if ◯◯ is right for you.”(◯◯<処方薬の名前>があなたにあっているか医師に相談してみましょう。)という決まり文句がコマーシャルの中で必ず流れます。病気の症状や痛みで普通の生活ができない人が、この薬によって生活が一変するような描写がされます。このように処方薬を消費者に直接宣伝すること(Direct-to-consumer marketing)が合法なのは、世界の中でもアメリカとニュージーランドだけということです。
時事問題の賛否両論を掲げるProCon.orgという団体によりますと、2017年にアメリカの製薬業界は処方薬の宣伝費用に61億ドルをかけたと報じています。製薬会社によると、処方薬の宣伝をする目的は、消費者に新しい製品などを周知することで病気や症状のことで早めに医療機関にかかって医師に相談するように促したり、病気に対する悪いイメージを取り除いたり、新製品の開発に必要な資金を供給するためだと主張しています。一方で、処方薬の宣伝に反対する意見としては、これらのコマーシャルは消費者に誤解を与えたり、長期的な製品の安全性が確立される前に製品を推奨したり、貴重な診察時間を無駄にし、アメリカ社会での処方薬の過度の使用につながっていると主張しています。※
また近年、アメリカでよくニュースに登場する処方薬の値段の高騰の問題もあります。エピペンを製造しているマイランは、2007年に1本50ドルほどで買えたエピペンが徐々に値上がりをし、2016年には2本組で700ドルで販売していることが報道され、数年前に全米で問題となりました。その後エピペンのジェネリック製品が発売され、多少値段が下がったものの、結果的に10年ほどの間に、倍以上の価格で販売されてます。
このように、日本とは違って政府による規制のない自由な製薬市場が存在するアメリカでは、安心して闘病ができないのではないかと考えてしまいます。処方薬を購入する余裕のない人は処方通りに薬が飲めなかったり、健康保険を持っていても、処方された薬が保険適用にならずに自費で払わないといけない人がいたりと、「なぜこんな状態が医療業界で許される??」と疑問に思ってしまうことが現実に起こっています。
※このパラグラフの情報引用元:ProCon.org https://prescriptiondrugs.procon.org/
橋本実和
(米国・日本看護師、米国看護学士)
IPEC看護英語教育アドバイザー
アメリカ・カリフォルニア州のCommunity Collegeで看護教育を経てAssociate Degree in Nursing(ADN)を取得。NCLEX-RN合格後、バークレー市内の病院のがん・血液科病棟にて病棟ナースとして5年間従事。その間にカリフォルニア州立大学にて看護学士を取得。帰国後、IPEC看護英語専任教師として活躍しながら、日本の看護師免許を取得。現在はインターナショナルスクールのスクールナースとして働きながら、IPEC看護英語教育アドバイザーを務める。
看護学生・現役看護師の方々からの強いご要望にお応えして、実践的な英語コミュニケーション力を習得できる 「看護英語テキスト」を作成しました。
看護・医療系学校の英語授業、医療機関の英語研修でご活用いただいております
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