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【メディカルニュースコラム】世界を癒す無私の精神をたたえて ~看護師と助産師の国際年~

【海外の看護現場から】

2020年はCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界的に拡大し、暗い話題が多かったですが、今年最後にひとつ明るい話題をお届けします。

2020年は「Year of the Nurse and the Midwife(看護師・助産師の国際年)」であることをご存知でしょうか?今年は近代看護の母とも言われるフローレンス・ナイチンゲールの生誕200年にあたり、世界保健機関(WHO)はこの記念すべき年を「Year of the Nurse and the Midwife」と指定し、世界中でキャンペーンを展開しています*1

このキャンペーンの主な目的は、看護師・助産師の働きをたたえ、彼らがしばしば直面する困難な状況を明らかにし、看護・助産人材への投資を増やすよう呼びかけることです。看護師・助産師は、在宅から病院まで多様な現場で、人々の出生から終末期まで生涯にわたりケアを提供し、保健医療サービスには欠かせない専門職です。それにも関わらず、安全な労働環境が確保されない、十分な賃金が支払われない、専門性を正しく評価されない等の課題も多く、このキャンペーンにはそうした状況を広く社会に周知することで対策を求めるねらいもあります。

このキャンペーンの一環として、WHOは世界の様々な現場で活躍する看護師・助産師のストーリーをホームページで紹介しています。

カナダ北部・亜北極圏にある町には、最近まで医師や助産師がおらず、妊婦は500kmほど離れた町に行って出産しなければなりませんでした。しかし5年前、数人の助産師が地元の病院内で出産も含めた周産期サービスを始め、これにより町内での出産が可能になり、また、産前・産後のメンタルケアや乳房ケアなど、きめ細やかなサービスを受けられるようになりました。

また、アイルランドでは、病院に入院したホームレス患者を担当する看護師がいます。様々な背景や事情を抱える患者との信頼関係を築き、安全・安心な入院生活を送れるようサポートするだけでなく、退院後の住居や医療福祉サービスを手配するなど、様々な現場の医療・福祉専門職と連携し、包括的なフォローアップも行っています。

その他にも、看護師2人で患者130人を受け持つCOVID-19病棟で働く看護師、妊婦・新生児・高齢者・視覚障がい者・健康保険未加入者等、あらゆる住民をケアする訪問看護師、予防接種を受けに来られない人の自宅まで出向いて接種を行う看護師など、それぞれの国・地域ならではのユニークな看護・助産ケアや、そこで働く看護師・助産師の思いを紹介しています。

中でも、COVID-19患者をケアする、ある看護師の言葉が印象的です。

“It’s like you’re going into the battlefield. You see the fire, and you’re running into the fire, not thinking about yourself. That is the selflessness that you can see in nursing today.”

「それはまるで戦場に入っていくようなものです。砲撃を見ても、自分のことは考えずに、その砲火の中に飛び込んでいくのです。それが今の看護にみられる無私の精神です。」(筆者訳)

そして、それでも看護を続けるのは、患者が回復し、退院して愛する人々のもとに戻っていく姿を見ると、またがんばろうという気持ちになるからだと言います。

これこそが、多くの看護師や助産師の根幹にあり、彼らを突き動かし続けているものではないかと感じます。

11月にオンライン開催されたWorld Health Assembly(世界保健総会)では、今回のパンデミックで何百万人もの医療従事者が献身的な犠牲を払ってきたことを評価し、2021年を「the International Year of Health and Care Workers(医療従事者の国際年)」とすることが満場一致で決まりました。看護師・助産師は、他の医療従事者とともに、来年以降も世界中でたたえ続けられることでしょう。

今年一年を通じて、パンデミックの最前線で昼も夜も働き続け、今この瞬間も、日本中、そして世界中で人々のために尽力しているすべての医療従事者に、心から感謝を申し上げます。そして、一日も早くCOVID-19による苦難が解消され、来年はこのコラムでもたくさんの明るい話題をお届けできることを祈ります。

 

 

*1 WHO, Year of the Nurse and the Midwife 2020(2020年12月3日アクセス)
https://www.who.int/campaigns/year-of-the-nurse-and-the-midwife-2020

ブログ執筆者

久々宇 悦子(カナダ看護師、日本看護師・保健師)

日本で看護大学卒業後、国内で病棟勤務を経てカナダ渡航。独学でカナダ看護師試験(Canadian RN Exam)に合格、看護師免許取得。就労ビザ取得後、トロント市内の地域基幹病院に入職し、外傷・脳神経外科ICUにて看護師として2年間勤務。帰国後、看護職能団体にて看護労働や学会事業等に従事。

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