最近、アメリカでは、日本人的な感覚で考えると不思議な現象が起こっています。外出時のマスク着用の是非について大きな対立が起こっているのです。今年の4月にCDC(アメリカ疾病管理予防センター)が布製のマスクの着用を推奨する声明を出しました。厳密にいうとface coverings(顔を覆うもの)という用語が使われています。なぜならその頃は布製のマスクというものはアメリカでは存在しないに等しいものでした。
以前にマスクについてのコラムを書きましたが(『外国人の思う日本の不思議:マスクは必要?』 https://nurse.ipec.or.jp/mask/)、アメリカでは病院以外で一般の人がマスクをする習慣がなく、日本ではどこの薬局でも売っている使い捨てマスクなどはあまり見ない商品でした。ですがこの新型コロナウイルスのパンデミックをきっかけに、外でもマスクをする人が出始め、元々一般にあまり出回っていなかった中でマスクの買い占めが始まり、医療機関への十分な供給量を確保するのが難しくなりました。このような状況下でマスク着用の推奨をしたCDCは、医療現場用に使い捨てマスクを確保するために、「布製の顔を覆うもの」を使用するようにと声明を出したのです。
ただ単にバンダナのようなもので口と鼻を覆ったりする人もいれば、スキー用などのマスクをつけて街中を歩いている人も出始めました。その頃から「布製マスクの作り方」などの動画を使って自分で作ってみたり、需要を見込んだ会社は布製のマスクの商品を売るようになりました。ここまではあまり日本と変わらないように思います。しかし、ここから不思議な現象になっていきます。
CDCがマスクの着用を勧めてから多くの室内空間でマスク着用のルールなどができ、”No mask, no service” を掲げるお店なども出てきました。特に感染者数の多い自治体や州では政府が介入し、マスク着用を法律で義務化するところも出てきました。この段階で、このマスク着用「問題」は別の意味も持つようになりました。
単純にいいますと、トランプ大統領率いる共和党派は「マスクをすることは勧めるが義務化する必要はないし、義務化することは人権侵害だ」と主張し、対する民主党派は「みんなが着用すればみんなが守られるから着用するべきだ」と主張しています。日本でも別にマスク着用は法律で義務化されているわけではないですが、この状況下でマスクをしていない人を見かけることは少ないのではないでしょうか。
最近では「マスク反対派」がお店などで問題を起こしている動画が毎日のようにSNS上にアップされています。店員に暴言を吐いたり、他の客と大声で怒鳴り合っていたり、マスクを着用していないという理由で入店を断られた客が「人権侵害だ!」と嘆いたり、「私は健康上問題があってマスクはできないと医者に言われているのよ!」と叫んでいたりする動画がたくさんあります。
また、マスクを長時間着用すると酸欠になるという理由で「マスクはできない」と主張する人も多く出ているようです。この主張に対して「それじゃあ、毎日1日中マスクをつけて働いている医療従事者は何なんだ」と言い返したり、医師がパルスオキシメーターを使って、数値を示し反論する動画などを発信している人もいます。
日本人にとっては、マスクを着用することは「普通」のことだと思いますが、「文化」が違うと人々の対応もこれだけ変わるものかとしみじみ感じてしまいます。
橋本実和(米国・日本看護師、米国看護学士)IPEC看護英語教育アドバイザー
アメリカ・カリフォルニア州のCommunity Collegeで看護教育を経てAssociate Degree in Nursing(ADN)を取得。NCLEX-RN合格後、バークレー市内の病院のがん・血液科病棟にて病棟ナースとして5年間従事。その間にカリフォルニア州立大学にて看護学士を取得。帰国後、IPEC看護英語専任教師として活躍しながら、日本の看護師免許を取得。現在はインターナショナルスクールのスクールナースとして働きながら、IPEC看護英語教育アドバイザーを務める。
特定非営利活動法人プロフェッショナルイングリッシュコミュニケーション協会
〒105-0001 東京都港区虎ノ門1-14-1 郵政福祉琴平ビル5階
Copyright © Institute for Professional English Communication All Rights Reserved.