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「私のRN体験記~アメリカ編~」
第2回 アメリカの看護学生生活と英語

日本生まれ日本育ち、病院に無縁だった私が、なぜアメリカの大学に留学してカリフォルニア州の看護師への道をたどったのか。アメリカの大学生活・看護学生生活・看護師の仕事など、その道のりを振り返りながら英語学習過程も含めて3回のシリーズでお届けします。

第2回
アメリカの看護学生生活と英語


【看護学部への準備】

アメリカの大学で看護師を目指すことを決意し、姉妹大学内の看護学部に入るための準備が始まりました。

まず、看護学部に入るための必須申請要件として、看護オリエンテーションへの出席、高校卒業の証明、大学レベルの数学と英語能力の証明を揃えた上で、学部申請の前提条件 (prerequisite)となる解剖学・人体生理学・微生物学をC以上の成績で修了しなければなりません。 これらの履修科目にも受講できる順番がある為、履修修了までに1年ほどかかります。そして、看護学部に入った後は、1学期に10ユニットある看護科目に加えて卒業必須科目 (薬理学、英語、人間の成長と発達、社会学概論、他3科目など)を履修する必要があります。 これらの科目を看護科目と同時に勉強することは非常に困難だと思い、看護学部に入る前に前提条件科目とできる限りの卒業必須科目の両方を履修し、学部に入ってからは看護科目に集中できるように準備しました。

【看護学生生活】

全ての条件をクリアし受入れ許可をもらい、とても厳しいと噂されていた看護学部の生活が始まりました。

看護学部では、1週間の中で授業・技術演習・実習が同時進行されるため、限られた時間の中で優先順位をつけて効果的に学ぶ必要がありました。授業では毎回ミニテストがあり、学期内の試験も何回も行われ、100点満点中75点以上が合格で、全試験の2/3以上に受からなければ次のセメスターに進めません。試験範囲も広く、厚さ10cm程ある教科書の20章近くが試験範囲だった時は、教科書が読み切れませんでした。また、難解な医学用語で説明される授業を聞きながら理解し、同時に板書をノートに書き取ることは至難の業でした。そこで、事前に授業の録音許可をもらい、授業中はノートに書き写すことに集中し、帰宅後に録音テープを聞きながら一字一句をその日のノートに書き込み、それを読んで勉強しました。車の運転中は必ず授業の録音を聴き、寝ている時間以外は食事中もお風呂の中でも常に教材を読んでいました。1秒たりとも時間を無駄にできないという気持ちで、勉強づけの毎日でした。

実習で実技を行うため、授業後はラボ(演習室)で採血・創傷ケア・カテーテル関連他の技術練習をしました。足りない練習時間を補うために、物品を借りて家に持ち帰り、ベッドの上の枕を人に見立てて練習しました。 技術試験や病棟実習で行うことを想定し、工程・理由説明や患者さんへの声掛けも含め、ベストな手順になるよう声に出して繰り返し練習しました。

【看護実習と英語】

病院実習前日は、授業や演習後に指定された実習病院へ1人で患者情報収集に行きます。 知らない病棟で多くのカルテの中から自分で患者を2人選び、3時間ほどで必要な情報を書き出すことはかなり大変でした。そこで、限られた時間の中で無理なく全てを行える工夫として、授業と技術と実習をリンクさせるために、できるだけ今の授業内容や技術演習と関連した特徴や疾患を持つ患者選択をしました。患者情報収集後は急いで自宅に戻り、全ての薬の効能・副作用・禁忌などを調べ、収集した患者情報を基にアセスメント項目、看護問題・看護診断から看護介入まで2人分の患者の看護過程を作成します。ほぼ、朝の5時頃までかかり、その後、実習の支度をして病院に行きます。病院に着いたら、教員に自分が作成した看護過程を見てもらい、内容に問題がなければ病棟実習が行えます。実習では、英語で会話し、2人の患者の看護を安全に正確に素早く行わなければなりません。ある時は、担当患者1人のインシュリン注射をするために教員と病室に向かっている時に、担当看護師に呼び止められ、もう1人の患者の術後アセスメントが必要になったと言われました。皮下注射の技術を事前に十分に練習し、インシュリンのダブルチェックも行いましたが、タスクをこなしながら現場の緊張感の中で同時に英語で緊急の会話もしなければならない難易度は想像を超えていました。教員に「今、看護師から何を言われたのか」と追究されたときには、半分しか答えられませんでした。そして「英語で話されたドクターやナースの言葉を1回で正確に聞き取ることは必須」と言われた意味と、英語力の不足は患者の命という「安全性に関わる重大な問題」 (Safety Issue)ということを実感しました。

【必須の英語上達】

アメリカの看護学生にとって英語力は患者の生死や安全に関わる重要な問題です。それと同時に、私にとってもアメリカ看護学生生活の生き残りに関わる問題でした。そこで、忙しい看護学生生活の中でも英語上達を必須とし、英語を英語で理解すること、基本を再学習すること、看護の勉強や活動を通して英語力を上げることを自分に課しました。まず、時間が限られていたので、常に電子英英辞典を持ち歩き、知らない単語はその場で意味を調べ、単語の意味内容を英語で理解しました。また、基本の再学習として、既に学んだ「発音」「クリティカルシンキング」「コミュニケーション」を別科目で再び履修しました。そして、毎日の看護の勉強・活動を通して「何故それをするのか、どのように行うのか」などを口頭説明できるように車を運転しながらいつも英語を口にしていました。少し余裕ができた頃には看護学生関連の活動に参加し(精神疾患を知ってもらう運動の”NAMI Walk”、ホームレス・アウトリーチ施設での表彰式、アメリカ全土の看護学生集会など)、多くの看護学生との交流を通して看護に関わりながら同時に英語を身につける努力をしました。

執筆者

鈴木規子(米国看護師、保健学修士)、看護大学英語非常勤講師

アメリカ・カリフォルニア州の2つのCommunity CollegeでAssociate Degree in NursingとNatural Scienceを取得。NCLEX-RN合格後、L.A.カウンティの長期療養病院勤務、在宅看護を経て日本に帰国。 神戸大学保健学研究科看護学領域実践看護学修士課程修了、看護大学助教として慢性期看護学・老年看護学・看護英語教育に従事後、現在は看護大学などで英語授業を担当する。

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